PET,fMRI,NIRS,MEGなどの普及により脳波を用いた脳機能の研究は、かつての栄光の座から姿を消しつつあるが、高時間分解能やコスト面から考えた場合に捨てがたい手法でもあります。
1993年にTuckerらが開発したGeodesic Sensor Netにより、脳波がこの分野で再び研究手法の対象になることを可能にしました。
人間の脳波を、より忠実に測定するためにはデータのサンプリングにおけるナイキスト法則を満足しなければなりません。
時間的サンプリングはA/Dコンバータのサンプリング周波数で決定できますが、空間的サンプリングは電極の数に依存することになります。
Srinivasan(1995年)は空間的ナイキストを満足するには128chの電極が必要と報告しています。
128個の電極を被験者に装着するにはペーストを用いて個々に装着したのでは多くの時間と被験者への負担が多く、さらにキャップ式電極を用いた場合でも、電極抵抗を下げるために皮膚に傷をつけるという衛生上の問題を抱えながら行わなければなりませんでした。
Tuckerらの開発したSensor Net電極は皮膚を傷つけることなく、129個の電極を僅か10分で装着でき、しかも電極インピーダンスが50K~100KΩでも脳波をひずみ無く計測できるもので、被験者への負担も無くまた新生児など今まで不可能であった対象への脳波記録が可能になりました。
さらに時間的・空間的分解能が向上したことで、マッピング解析やソース解析の信頼性が向上し、脳波が研究手法として再び注目をあびる可能性が出てきました。
脳波で脳機能を測るにはいくつかの精度を上げるためのポイントを押さえおかなければなりません。
時間分解能については、最近の電子工学の発展によりA/Dコンバーターのスピードも増し、また、コンピュータの解析スピードも各段向上してきたために、問題は無くなってきています。
しかし、空間分解能つまり電極の数に依存する空間情報の精度は充分とは言えません。
Spitzerら(1989年)は精度ある脳波解析に必要な電極間距離は3cm以内と報告し、Srinivasanら(1996年)が電極数では128ch以上が必要と報告しています。
それでは、実際に128個の電極を日常検査の中で装着できるのでしょうか?
そしてそれは実用的なのでしょうか?
さらに被験者や患者さんに負担を与えることなく、安全にそして迅速に装着できるのでしょうか?
これらの問題を解決するために1993年オレゴン大学のTucker教授のグループがGeodesic Sensor Netを開発しました。
これがTuckerらの開発したGeodesic Sensor Netです。
256ch、128ch、64chを以下に示します。
最近開発されたHydroCel GSNを下に示します。
これは従来のGeodesic Sensor Netを改善したもので、電極の高さが低くなっています。
HydroCel GSN は長時間の測定も可能です。
右の写真はてんかんモニタリングに使用しているところです。
充分な空間サンプリングを得るためには、より多くの電極を頭皮に装着する必要がありますが、 Geodesic Sensor Netはそれぞれ三角計の頂点に電極を設置し、接地線の碁盤目状の配列を持たせています。
それぞれの電極は強靭なビニル紐で結ばれており、頭皮に装着した場合はシャボン玉が膨らむ時に表面が均等に膨張するのと同じ様に、頭表面に電極が均等に配置されます。
電極は銀塩化銀電極で、それをやわらかいスポンジが覆い、このスポンジが電解液 (KCl)を含んだときに頭皮から脳波を電極に効率良く伝えます。
電極の装着は極めて簡単で、頭頂部(Cz)と左右の耳を基準にして、検者がそっと被せるだけです。
被せた後はそれぞれの電極が頭皮に接着するように髪を分けて調整するだけです。
この時間はおよそ10分間です。
Sensor Netの特長は
- ■ 皮膚を傷つけず、感染の心配は皆無です。
- ■ 非常に短時間で装着が完了し(約10分)、しかも誰がつけても正確な位置に装着できます。
- ■ 被験者にとって不快感は無く、ペーストなどで髪がよごれることは一切ありません。
- ■ 研究分野では繰り返し被験者をお願いする場合など快く引き受けてもらえます。
などの利点があります。
特に、今までは研究対象として不可能であった新生児においても64ch、128chといった多チャネルの脳波研究が可能になりました。
空間的ナイキストを研究した幾つかの論文がありますが、1996年Srinivasanら(Behavior Research Methodes, Instruments&Computers 1998,30(1),8-19)の研究に見るように、小さなフォーカスであればあるほど、解析のチャネル数が多くないと正確な解析が出来ないことを報告しています。
彼らは128chが最適と報告し、それ以上の電極になると、頭部の多層構造(大脳皮質、脳脊髄液、くも膜、硬膜、頭蓋骨、頭皮)によるフィルター効果によって空間分解能の向上は期待できないとも言っています。
しかし、この考えは仰角180度の範囲の考えであり、頭を球としてソース解析を行う場合には、256chなどの多くの電極で頭全体をカバーできるものが必要と思われます。
電極数と電極間距離の関係は19ch(10/20法)で約7cm、32chで 5cm、64chで4cm、そして128chで3cmとなっています。
128chの電極数と電極間距離は、1989年のSpitzerらの報告による電極間距離は3cm以内でなければならない、という主張と、1996年Srinivasanらの報告による正確な解析は128ch以上を満足するもの、という主張の両方を満たすものです。
画像刺激によるERP計測でN100頂点の振幅マッピングを128chと32chの計測で比較したところ、 128ch計測で見えている左後頭部(T5,O1)のフォーカスが32ch計測のマッピングでは見えなくなっており、右後頭部のフォーカスしか表示できていません。
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Spatial Nyquist of the Visual ERP:
N100 from a single subject:
128 channels (left, middle), 32 channels (right)
Srinivasan, R., Tucker, D. M., & Murias, M. (1998). Estimating the spatial Nyquist of the human EEG. Behavioral Research Methods, Instruments, & Computers, 30, 8-19.
てんかん患者のスパイクを125chと27ch記録で比較する実験を行いました。
対象は9名で脳波上スパイクを認める患者で、6名は手術によって病巣部位が判明している症例です。
これは128chの脳波でいくつかのスパイクが認められます。
このスパイクに対して振幅マッピングとソース解析を行いました。
脳波信号を歪ませる原因は、空間サンプリングの他に以下の様なものがあげられます。
- 1. サンプリング周波数
- 2. 電極インピーダンス
- 3. 電極インピーダンスの不均衡
- 4. 静電誘導・電磁誘導
これはサンプリングエラーによる擬似波形の発生について説明したもので、サンプリング周波数が低くなると本来の波形とは全く違った波形になってしまいます。
一般的にサンプリング定理ではその波形の持つ最高周波数の2倍以上の周波数で A/D変換すれば良いとされていますが、脳波などの波形解析では2.5倍以上の周波数でサンプリングすることが推奨されています。
また、サンプリング周波数の違いによるエリアジング誤差をなくすために、アンチエリアジングフィルターを用いて高い周波数成分をカットする方法が一般的に行われています。
入力インピーダンスが200MΩのアンプの場合
電極インピーダンス5KΩの時の最大振幅誤差は0.00005%
電極インピーダンス50KΩの時の最大振幅誤差は0.0005%
これは1μVのEEGの場合に 0.0005μVの振幅誤差
※ センサーネット電極の電極インピーダンスが50KΩでも測定可能です。
センサーネット電極は電極と皮膚とのインピーダンスが50KΩから100KΩになります。
しかし、このような高いインピーダンスでも脳波を歪ませないという説明をしたのが、右の図です。
センサーネット電極と皮膚のインピーダンスをZ1・Z2、脳波アンプの入力インピーダンスをZdとした等価回路を示しますが、アンプの入力インピーダンスが200MΩありますので、この場合に電極インピーダンスが50KΩであったとしても0.0005%の振幅減衰しかしないということがいえます。
アンプの入力インピーダンスが大きければ、電極インピーダンスが高くても本来の信号を減衰させないということが理解できます。
むしろ問題になるのは次に説明する電極間のインピーダンス誤差なのです。
電極インピーダンスのばらつきはハムノイズで代表される外来雑音の影響を強く受けます。
つまり、電極インピーダンスの違いはハムノイズの増大を招きます。
外来雑音(主にハム)はそれぞれの電極、及び、リード線を介して浸入してきますが、一般にはZ1とZ2は非常に近い値であるために、差動増幅器の原理からアンプのG1とG2には同じ雑音電位が入力されることとなり、出力には現れません。
ところが、Z1とZ2の差が大きければ、その差の抵抗分から発生する雑音電圧はアンプで増幅されてしまい、その結果、脳波に雑音が混入してしまいます。
電極インピーダンスを同じにすることと、リード線の引き回しを同じにする(束ねるなど)ことは、外来雑音を減少させるのに役立ちます。
EGI社ではMEGとの同時計測を可能にしたHydeocel電極を開発し、 128chや256chの脳波とMEGを同時計測することが可能になりました。
これに伴い、それぞれの装置の欠点を補い利点を生かした解析が可能になりました。
EGI社ネットステーションで測定された脳波をEMSEソフトウエアで解析し、MRI画像と組み合わせた様々な解析が可能です。
EMSEではトリガ信号を抽出し加算を行うことができます。
トリガ信号は脳波計のステータス信号やアナログ信号であればそのトリガレベルを設定し自動抽出できます。
加算はいくつかの条件を設定し組合せ加算ができます。
さらにマニュアルで1つ1つのトリガに対する波形を目視しながら加算を行うことも可能です。
最近、ウエーブレット解析による時間周波数解析ができるようになり、短時間に変化する周波数の変化を表示することができるようになりました。
また、MRI画像から脳や頭蓋を自動抽出し3D画像を作成し、その上に Source Current Density Mapを表示することが可能です。
もちろん、LORETAやダイポール解析も可能です。
頭形状にフィットする多チャネルセンサーネットの特長をまとめると以下の様になります。
- ○ 128chの装着は10分以内で可能
- ○ 被験者の皮膚を傷つけなく安全な電極
- ○ ペーストを用いないために被験者はよごれない
- ○ 新生児でも多チャネルのEEG計測が可能
- ○ 電極インピーダンスが50KΩでも正確な記録のアンプ
- ○ 電極数の違いによるマッピング及び信号源推定値の違いを報告
■ ネット環境によっては多少時間がかかる場合があります。ご容赦下さい。
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