脳波は脳の機能的側面を把握するために有用なデータを提供してくれます。しかし、最近の画像診断技術の向上や脳磁図・光計測技術の発展によって、一部の専門領域を除いて脳波の臨床分野での利用は少なくなってきています。しかし、脳波は時間分解能に優れた手軽な検査方法であることには変わりません。
脳磁図の出現によって脳の神経機能面での研究は脳波の利用を一層低下させましたが、脳磁図は設備設置にかかる経費と運用経費が無視できない金額であること、また測定場所が固定されること、小児や動きを伴う被験者での計測が困難なことから、最近になり脳波が見直されてきています。
脳波の価値をより高めるために特殊な配列の脳波電極を研究したDon Tucker教授(オレゴン大学)は、先ず脳波のチャネル数を多くし、しかも電極装着を簡略化し手軽に多チャネルの脳波を計測できるためにセンサーネット電極を開発しました。1992年、彼はEGI社を設立し本格的な多チャネル脳波の研究を開始しました。特に新生児を含む小児科領域での脳波計測はこのセンサーネットによって大きく発展し、そして最近の彼らのホールヘッド型のセンサーネット電極による信号源推定の研究により、その精度は著しく向上しようとしています。
ここではEGI社の高密度脳波計についての説明とともに、信号源推定についても平易な用語を用いて解説しました。また、てんかん分野での応用やfMRIとの同時計測技術の紹介も加えました。
この小冊子が高密度脳波計測の一助になれば幸いです。
2012年10月
株式会社ミユキ技研マーケティング部
Dense array EEG(以下dEEG)とは128ch以上の電極を備えた脳波計のことで、“高密度電極脳波計”とも呼ばれています。さらに最近は顔全体を覆う256ch電極ホールヘッド型脳波計(全脳型脳波計)が開発され、高次脳機能研究やてんかん診断で利用されてきています。
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図1 EGI社 128ch HCGSN電極
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図2 EGI社 256chホールヘッド HCGSN電極
高密度脳波計の開発は1985年ころNeuroscan社(現在はCompumedics社)から始まり、当初はHigh Density EEGとして64chから256chシステムが研究者の間で使われていました。しかし、多くの電極を取り付ける煩わしさと髪が汚れるという理由から本格的な研究室以外からはだんだんと姿を消していき、さらに1990年ごろよりMEG(脳磁計)が本格的に稼働されたこともあり、高密度脳波計の普及が阻まれました。現在は、時間と空間分解能の性能が優れているため、MEGが脳機能研究の主流となっています。
しかし、MEGも万能ではなくデメリットもあります。それは購入費用と運用費用が高く、長時間計測や小児計測に向かないことです。このような状況の中で米国オレゴン大学のTucker教授がセンサーネット電極を開発し、1992年にEGI社(Electrical Geodesics, Inc.)を設立しました。この脳波電極により、今まで不可能とされてきた新生児・小児の脳波測定ができるようになり、さらに脳波による脳機能発達の研究に応用できたことで、この分野の研究が急速に発展しました。最近はセンサーネット電極を用いた256ch全脳型電極によるdEEGがEGI社によって全世界に販売され、脳波の新時代が築かれようとしています。
センサーネット電極(GSN電極)はオレゴン大学のTucker教授によって開発された脳波電極で、多チャネル電極を迅速かつ正確に装着することを目的に開発されました。その後、改良が加えられ現在はHCGSN電極(ハイドロセル・ジオデシック・センサーネット電極)として販売されています。充分な空間分解能を得るためには、より多くの電極を頭皮に装着する必要がありますが、HCGSN電極は全ての電極を強靭な伸縮性に優れたエラストマーバンドで結び、三角形の頂点に電極を設置する碁盤目状の配列を持たせています。この構造により頭皮に装着した場合、シャボン玉が膨らむ時に表面が均等に膨張するのと同じように、頭表面に電極が均等に配置されます。これをジオデシック・テンション・ネットワークと呼びます。電極の材質はスポンジで覆われた銀塩化銀で、測定時にこのスポンジに電解液(KCL)をふくませることで頭皮から電極に脳波を効率良く伝える構造となっています。
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図3 ジオデシック・テンションネットワーク
エラストマーバンドによりHCGSNによる頭皮への圧迫は、電極の数によって分配されるために血液循環を妨げることがなく数時間快適に装着できます。頭皮へはスポンジに囲まれた電極がKCL電解液を介して接触されており、ペーストなどの髪を汚すものは使用されません。したがって被験者は記録終了後に洗髪の必要がなく、終始快適な状態で脳波計測を行えます。また、発汗による基線変動もKCL電解液を介しているために分極電圧の変動が小さく安定した記録ができます。
HCGSN電極を用いた脳波測定は非常に短時間で電極装着が行えることと、被験者に対しては皮膚を強く擦る必要がないことや髪が汚れないなどのメリットがあります。また、一般的に言われている電極インピーダンスを10KΩや5KΩまで下げなくても精度のよい記録が得られます。その理由はアンプの入力インピーダンスが大きいことと同相信号除去性能が高いことです。
アンプの入力インピーダンスと電極インピーダンスの関係は、真の脳波信号の減衰に関係しますが、入力インピーダンスが充分に大きければ電極インピーダンスが高くても信号減衰は無視できる範囲に収まります。HCGSNと組み合わせる脳波アンプは入力インピーダンスが200MΩありますから、仮に50KΩの電極インピーダンスでも信号減衰は0.025%となり充分無視できる範囲となります1)。
また、脳波測定でしばしば発生する問題は電源ラインから混入する交流障害(ハム)で、この原因は電灯線や蛍光灯などからのストレーキャパシティによる静電誘導です。この静電誘導によって発生するハムは、生体や電極リードに入力され脳波に重畳して記録されます。脳波増幅器は差動増幅器を用いているために、G1とG2に入力される電位が等しいとその信号は出力には出てきません。つまり電極インピーダンスの値が揃っていれば差動増幅器の特性によってハムの影響を少なくすることができます。GSN電極の場合は皮膚を擦らないために、どの部位でもインピーダンスは高いものの均等な値になります。これによって均等なハムが増幅器に入力され、差動増幅器の性能によってハムは増幅されません。さらに電極リードはシールドされたカバーに覆われているので、静電誘導や電磁誘導の影響も軽減されます。つまり、HCGSN電極の構造と専用アンプの性能により、電極インピーダンスをこれまでのように下げなくても安定した記録が可能になるわけです。
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図4:電極インピーダンスと入力インピーダンス
最新脳波標準テキスト(メディカルシステム研修所)より引用
ルーチン脳波検査に用いる電極は両耳朶電極を入れて21か所です。これは国際的に定められた誘導法で国際10/20法といいます。病院での検査に用いる脳波は全てこの電極配置で測定された結果で判断しています。この耳朶を除いた19か所の電極が脳のどの部位の電位を反映しているかを研究した論文によればFp1, Fp2(中前頭回下部)、F3, F4(中前頭回上部)、C3(中心前回後部)、C4(中心前回)、P3, P4(上頭頂小葉下部)、O1, O2(鳥距溝上部の後頭葉)、F7, F8(下前頭回)、T3, T4(前側中側頭回)、T5, T6(後側中側頭回)となっています2)。
一方、脳機能の研究で脳波を用いる場合、従来は3cm間隔の電極配列で充分と言われてきましたが3)、最近は2cmでないと正確な解析ができないと言われており、この要求を満たすチャネル数は256chになります。10/20法では7cm間隔ですから、その違いは大きいです。また、脳波のサンプリング周波数に関しては、解析しようとする最高周波数の2倍以上の周波数でサンプリングしないと正確な解析ができないというサンプリング定理がありますが、チャネル数(電極間距離)においても、その考えが当てはまることをFreemanらは報告しています4)。2cmの空間分解能を得るには電極間隔は1cmとし、チャネル数では500chということになります。やがては500chや1000chという脳波計も出現するかもしれません5)。
図5:電極数の違いによる電極配置
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図6:電極数の違いによるマッピング表示への影響
左は128ch、右は32chの記録。
32chでは左側頭部の陰性電位を表示することはできないが
128chでは詳細に電位分布を表示できている6)。
前述したようにルーチン脳波検査では、国際10/20法により脳波の電極は両耳朶と鼻根部(nasion)、外後頭隆起(inion)を基準にしてそれよりも上に着けることになっています。しかし、実際の脳はこの基準点よりも下まで及んでおり、脳全体の情報を記録できているわけではありません。最近は頭皮上で記録された脳波から、その信号の発生源を推定する研究が多くなってきています。そのためにはできるだけ多くの電極を用いて頭全体から脳波を記録する必要があります。
HCGSN電極ではより正確な信号源推定を行うために顔面にも電極が着いています。図7のように脳の表面は均一ではなく、凹凸のある構造になっており、そのため脳表面から発生する電位はあらゆる方向に伝播していきます。その中には頭皮に向かって伝播する電位もあれば、左・右、または下に向かう電位もあり、顔面に向かう電位も当然あります。とくに重要な脳ネットワークは、脳下面(眼窩前頭、側頭底部、後頭皮質)にありますから顔面の電極や首の周りの電極も重要になります。
Luuら、Tuckerらは、うつ病患者のERP研究においてエラー関連陰性電位の発生源が前帯状回だけでなく、島皮質も関係していることを顔に電極がある256ch HCGSNの脳波記録からみつけました7,8)。
また、同じく256ch HCGSNを使った全身欠伸発作の脳波記録から、Holmesらは、陽性スパイクは広範囲に分布せず、正中前頭極に局限することを報告してします(2004年)。いずれも顔と首へも電極をつける256ch HCGSNだからこそ、記録できたことになります9)。
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図7:皮質表面は平らではなく、
様々な方向に向かう電位が存在する
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図8:脳溝で発生する脳波は
その直上では記録できない10)。
この議論をするのは時期尚早ですが、少なくてもdEEGはMEGの欠点を補完することができると言えます。EEGとMEGの比較を行う前に両者が検出している信号成分は違うということを理解しておかなければなりません。つまりEEGは電極に対して垂直方向の電位を検出し、MEGは水平方向に走る磁場変化を検出します。しかし、dEEGのような全頭型の電極配置であれば、頭皮に対して水平方向の電位でも少し離れた電極で小さい電位ながら記録できます。MEGのセンサ配列は全頭型ではありませんし、距離の二乗で信号が減衰するため、遠くの磁場変動は記録できません。
また、新生児や小児のMEG測定は頭が小さくセンサとの距離が遠いことと、動きが伴うためにその測定はかなり困難ですが、dEEGでは電極が頭皮に装着されているので確実に電位を捉え、しかも動きがあっても記録ができます。
多チャネル時代のEEG計測は信号源推定を伴った研究が主となりますが、実はEEGがMEGより劣る最大の理由は、脳内から発生する電位が頭皮の電極に到達するまでに髄液や硬膜、頭蓋骨を経由するたびに減衰することです。しかもそれぞれで減衰する率が一定ではなく部位によって異なるということです。それに対して、MEGは組織の性質の違いよって減衰率は変化せず、単に距離だけを減衰の原因として考えればよいのです。それゆえ、EEGの信号源推定は誤差が大きく信憑性に乏しいと言われています。
EEGの場合、頭蓋骨を通過する時に一番減衰が大きく、その抵抗は頭皮の80倍から100倍と言われおりましたが、最近の研究ではそれほどまで大きくなく、せいぜい15倍程度という報告もあります11,12)。しかし、全てのヒトの頭蓋骨構造は一定ではありませんので、今後の研究を待たねばなりません。そしてMEGとdEEGの同時計測は両者の欠点を補う点では有効な測定方法といえます。
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256ch Dense Array EEG
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300ch MEG
図9:256chDense Array EEG と300ch MEGのセンサー位置の比較
MEGによる信号源推定は容易で正確ですが、脳波の場合は脳や髄液、頭蓋骨で電位が減衰すること、またそれらは電極の位置によって減衰率が異なるなどの理由により信頼性は低いと一般的に考えられています。
この問題を解決するために、EGI社のTuckerらはdEEGによって頭全体から電位を記録し、そして頭蓋内電位の同時記録や形態学的解析からそれぞれの部位での電位減衰率を正確に計算し、脳波による信号源推定の精度を向上させる研究を行っています。
信号源推定の精度を左右する要素はいくつかありますが、次の5項目は特に重要です。
- 1.1 脳波のチャネル数
- 1.2 推定モデルの選択
- 1.3 頭部モデルの選択
- 1.4 正確な電極位置情報
- 1.5 解析対象波形の選択
脳波の信号源推定の結果は記録するチャネル数に関係します。Lantzらの研究では25chから181chで推定精度を比較し、68chを境にして推定結果の局在化が安定すると報告しています。そして68ch以下の解析ではチャネル数が少なくなるほど著しく局在化が悪くなり、100chを超えるとチャネル数にそれほど影響されなく安定すると報告しています13)。しかし、最近になりLantzらのグループは内側側頭葉に病変を有する患者においては、顔面を含む256chの高密度電極で計測することにより、正確に病変部位に信号源を推定できるが、128chや64chといった少ないチャネルの解析では誤った推定をする可能性があると報告しています。(2008年米国てんかん学会)
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図10 内側面に病変のある患者を、
顔面まで電極のある256ch電極で記録した場合に
正しい位置に信号源が推定できるが、
記録チャネルが少なくなると間違った推定結果を招く。
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推定モデルには次の2つの方法があります。
- Dipole fitting method
- Distributed sources method
Dipole fitting法は信号源を点で求めるもので、これにはSingle Dipoleを求めるか、Multiple Dipolesを求めるかの選択があります。
Distributed source法は点ではなく広がりとして求める方法で、これにはLORETA, sLORETA, Scanning Bearmformerなどが良く知られております。
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- Dipole fitting method
- 発生源を点で求める
- Single Dipole
- Multiple Dipole
- Distributed sources method
- 発生源を広がりで求める
- LORETA
- sLORETA
- Scanning Beamformer
- Minimum Norm-Normalized
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Dipole fitting method
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Distributed sources method
図11:2つの基本推定モデル
頭部モデルは、球体モデル(多くは球体3層モデル)とMRIを用いた実形状モデルに分かれます。球体3層モデルは頭蓋を球体と考え、しかも頭を電気伝導率が異なる3つの層(脳、髄液、頭蓋骨)から構成されていると仮定しています。球体モデルは計算が簡単で時間的にも早く結果が得られます。それに対してMRIを用いた実形状モデルは個人の頭の形状で計算が行われることから球体のように簡単ではありません。結果は実際に近くなりますが、計算時間は長くなります(境界要素モデル)。この境界要素モデルは個人のMRIを用いて頭部形状は個人ごとの形状で計算しますが、頭の中の電気伝導はすべて同じだとして計算します。これに対して頭の中は全て同じ電気伝導性ではなく場所によって異なるという考えを取り入れた有限要素法モデルがあります。この方法は正確な結果が期待できますが、計算が複雑で膨大な時間がかかります。そのため、臨床の場では実用的ではなく、採用されにくい方法となります。
こうしたことを踏まえて、EGI社は顔を含めた頭全体から信号を捉えることが可能なホールヘッド型256ch HCGSN電極を考案しました。加えて、頭部と顔面部では電気伝導率が異なることを考慮したFDM(Finite Difference Model 有限差分モデル)を開発し、より簡便で正確な推定を実現しています12)。
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Sphere model
球体モデル
頭蓋・脳は球体であると仮定
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Boundary element model
境界要素モデル
MRI画像を元に実形状で解析
(導電率は一律)
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Finite element model
有限要素モデル
MRI画像を元に実形状で解析
(導電率は組織によって異なる)
図12:Head Modelの種類と特徴
通常は3次元的に電極位置を計測する磁気センサ(ポヒマス社パトリオットなど)を用いて計測します。しかし64ch以上、特に256chともなると、手で電極位置を入力していたのでは時間がかかり実用的ではありません。そこでEGI社はカメラ11台を用いて光学式に電極位置を探し出すPhotogrammetry Systemを開発しました。このシステムを用いることにより、電極数に関係なく短時間でそれぞれの3次元的な位置情報を計測できます。
電極位置情報収集の時に、ここで得られた電極をMRI上に重畳表示する時の基準とするために、両耳朶と鼻根部(nasion)の位置情報も計測しておきます。
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図13:Photogrametry System
11個のカメラで全ての電極を撮影し3次元的な位置情報を得る。
① 適切なフィルタ処理
解析対象の波形は、ノイズのない安定した波形を用いるのが理想です。適切なフィルタ処理を行うことは安定した推定結果を得る良い方法です。また、てんかん性スパイク波はいつも同じ部位から出現しているとは限らず、スパイク形状や発生部位ごとに分類分けをしてそれぞれで信号源推定を行うことが重要です。その分類する方法としてクラスタ解析があります。
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図14 TC(LFF)をかけて波形を安定させる。
② クラスタ解析
クラスタ解析は記録されたスパイクを形状や発生部位ごとに分類して、信号源推定の対象波形を絞り込んでいく過程の処理です。図の例はPersyst社のRevealを用いた解析で、スパイクの発生部位、発生した時間帯、波形の形状などで自動分類できます。
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図15 クラスタ解析を行ってスパイクを分類
③ スパイクの解析位置
てんかんスパイク波の信号源推定でしばしば問題となるのが、スパイク成分のどの位置で解析を行うかということです。
図はこの問題を研究した論文から引用しました。Lantzらは手術で病巣を摘出し発作が消失した症例で研究を行い、スパイク波の始まりからピークまでの前半部分で解析すると病巣との一致率が高いと報告しています13)。
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図16 スパイク波の前半部分で解析を行うと病巣部位との一致率が高い。
この項の冒頭に記しましたように信号源推定の精度を左右する5つの要素が整った段階で、信号源推定を開始します。この推定は順問題と逆問題を繰り返し解いて行われます。
順問題とは
脳内の活動源を頭部モデルを介して、頭皮上で計測されるであろう電位の理論値を計算する。
逆問題とは
実測された頭皮上の電位データと、順問題を解いて得られた理論値との間の誤差が最小になるように、活動源位置を変えながら計算を繰り返すこと。
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図17 順問題と逆問題の説明図14)
信号源推定は順問題と逆問題を繰り返して計算しますが、その手順は計算から求めた信号源が頭皮上でどのような電位分布となるかを計算して、実際に測定した脳波の電位分布と比較し、その違いが最小になるまで推定位置を変えながら計算を繰り返しますが、研究者によりいろいろな推定方法が提唱されています。一部の場合を除き真の答えを知ることができませんので、あくまでも参考の結果として考えるのが妥当でしょう。
例えば、てんかん症例では手術によって病巣部位を取り除き症状が改善することで、推定結果が正しかったどうかを知ることができますが、100%一致するわけではなく、結果の運用には多方面からの検査結果と併用した判断が重要です15,16)。
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図18 FDM方式を採用したGeoSourceプログラム(EGI社)
本項で述べられた考えをもとに開発されたのがGeoSourceです。その概念図を図19に示しています。3つの重要な項目は①顔面までカバーする高密度電極②正確な電極位置情報③新開発のFDM推定モデルです。
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図19 信号源推定システム GeoSource
このページでは、Hyper motor seizureの患者でdEEGを用いた症例をご紹介します。
MRIでは明らかな器質性病変が認められず、IMZ-SPECT FDG-PETでも異常所見は認められませんでしたが、19チャネル頭皮脳波による長時間ビデオ脳波モニタリングでは発作間欠期に左前頭部と前頭中心部に最大電位を示すてんかん性放電が認められました(図20A、B)。発作時脳波は低振幅速波から始まり、5-7秒後の前頭部優位に徐波律動が発生していたことがわかりましたが、発作開始時の脳波上の変化は乏しく、さらに発作時の体動によるアーチファクトにより発作起始部位を同定することは困難でした。
そこでより詳細なてんかん焦点を推定するために256chのdEEGによる長時間ビデオ脳波モニタリングを行いました。
このdEEGでは発作間欠時に前頭極~前頭部型と前頭中心部優位型の2つのてんかん性放電が認められ、それぞれの群の波形を平均化し電流源解析ソフトウエア(GeoSource)を用いて信号源を推定しました。
この結果、前頭葉内側のわずか左優位に信号源が認められ(図20C)、両側前頭葉眼窩面・半球間裂面・前頭葉外側をカバーするように広範囲に合計96極の硬膜下電極を留置しました(図20D)。
留置した結果、発作時の頭蓋内脳波は、高振幅徐波律動の後、低振幅の高周波が眼窩面に置いた電極から記録されました。この部位はdEEGで推定した発作間欠期のてんかん性放電の信号源推定位置と一致していると考えられ、手術は左前頭極から眼窩面にかけての切除を行い(図20E)、術後1年の経過では発作波は消失していました17)。
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図20 Dense array EEGによる発作間欠期棘波解析
発作間欠時に前頭極~前頭部型と前頭中心部優位型の2つのてんかん性放電を認めたが、
電流源解析ソフトウエア(GeoSource)を用いて信号源を推定した結果、
前頭葉内側、わずかに左優位に信号源が推定された。
これにより、手術は左前頭極から眼窩面にかけての切除を行った(山﨑まどか先生ご提供)。
fMRIと脳波の同時計測は、脳血流と神経活動の関係を研究する上で重要な手法です。しかし、MRIボア内での脳波記録では非常に大きなグラディエントアーチファクトが安定な脳波計測を困難にします。幸いにこのアーチファクトは一定の周期で一定の波形をしていることから、原理的に簡単なテンプレート差分法で除去できます。しかし、MRI装置と脳波計は別々のクロックで動作しており、この両者のクロックのずれによるクロックドリフトが波形を歪ませてしまいます。多くのMRI対応脳波計はMRI装置から基本クロックを元にして脳波計のサンプリングクロックを生成しています。この方法によりクロックドリフトを解決しています。しかし、それでも微弱な同期ずれが生じる場合があり、アーチファクトが残る場合があります。EGI社はPLL(フェーズロックループ)を用いてTRパルスの立ち上がりと脳波のサンプリングクロックの立ち上がりを同期する方法を採用し、低いサンプリング周波数(250Hz)を用いてもアーチファクト除去が可能となる方法を開発しました。その結果256chというdEEGでもデータ量が少なく、コンピュータに負担をかけない計測が可能となりました。その上、電極装着の時間が約10分と非常に短く、ペーストを用いないので被験者への負担が軽く、皮膚を傷つけないために安全性も高いです18)。
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図21 MRI対応HCGSN電極は10分で装着可能。
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図22 MRI装置からのTRパルスと脳波計のサンプリングクロックの立ち上がりをPLLを用いて同期させるために低いサンプリング周波数(250Hz)でもアーチファクト除去が可能。
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