Q なぜ発汗機能の検査を行うのか?
A 発汗機能検査は、神経障害(ニューロパシー)の初期段階を迅速かつ正確に発見できる方法です。汗を出すエクリン腺は、細い血管が多くあり、交感神経のC線維(自律神経)に支配されています。C線維は細くて長いため、様々な代謝性疾患の初期段階で障害を受けやすいため、発汗機能検査は有用だと考えます。
Q SudoScanとは?
A SudoScanは汗腺が最も密集している手のひらと足裏の発汗機能を非侵襲で約3分ほどで評価する検査装置です。汗に含まれる塩化物イオンとステンレス製の電極に含まれるニッケルの間で電気化学反応を起こすという確立された原理に基づいています。検査は4V以下の低い直流電圧を印加します。これにより汗腺や汗管から供給される塩化物イオンの流れに応じた電流が発生、電流と印加した電圧から手足それぞれの「ESC(電気化学的皮膚コンダクタンス)」を算出します。この理論は汗の塩化物濃度の高い「嚢胞性線維症」の患者と健常者を比較した研究(Hubert氏らによる論文)で確認されています。SudoScanは日本で医療機器認証を取得しているほか、ヨーロッパ(EC)、アメリカ(FDA)、中国(SFDA)など多くの国の保健当局から医療機器として承認されています。特定の禁忌がない限り、誰でも発汗機能の検査を受けることができます。
Q SudoScanでどのような情報が得られますか?
A SudoScanは両手両足のESC(左右の平均値)として示されます。その結果から以下のようなおおよその判断をすることができます。
・高いESC :正常な発汗機能と健康な神経支配(細いC繊維)を示します。
・低いESC :末梢神経または自律神経の障害を示します。
Q 医師はこの情報をどのように活用できますか?
A 自律神経の細い繊維の状態について、簡便な検査により情報を得られ、様々な医療現場で活用できます。
・病状のモニタリング :
現代医療は病気や合併症の発症を予防する方向にシフトしています。長くて細いC繊維はゆっくりと変性しますが、患者さんの生活習慣や治療法が変わると急速に再生します。医師はこのSudoScanの結果により、患者さん合併症を発症するリスクを判断し、治療の選択肢を検討でき、予防的な対策を講じることができます。
・糖尿病患者さんの適切な血糖管理レベルの評価 :
厳しい血糖管理を始める前に患者さんが自律神経障害を抱えているかを確認することは重要です。SudoScanによって医師はより専門的で時間のかかる検査を行うべきかを判断することができます。
・患者さんの服薬・生活習慣の把握 :
SudoScanは自律神経の状態を示すバイオマーカーとして、発汗機能を迅速に確認でき、患者さんの服薬や生活習慣の状況を把握できます。この情報は従来の血液検査を補完するものであり、患者さんの口頭での回答などの主観的な情報ではなく、定量的な数値によって正確な経過観察をすることができます。
Q SudoScanの検査対象は?
A 糖尿病患者さんの末梢神経障害の評価や経過観察に有用です。またアミロイドーシス、ファブリー病、パーキンソン病など、特に自律神経の小径繊維神経障害の評価が必要な神経内科領域でも活用できます。
Q SudoScan検査のメリットは?
A 糖尿病予備軍やメタボリックシンドロームの患者さんは小径C繊維神経に損傷が見られることがあります。SudoScanで手のひらと足裏のESCを測定することで次のメリットがあります。
・3分程度の時間で発汗腺の機能を知ることができます。これは末梢神経機能の状態を示す指標となります。
・バイオフィードバッグ:生活習慣の改善や投薬が末梢神経に与える影響を数値で確認できます。このように定期的に検査することにより、患者さん自身も数値の変化を把握することができます。
Q 性別はSudoScan検査結果に影響しますか?
A いいえ、影響しません。他の発汗機能検査(QSART等)では、女性は発汗量が少ない傾向があるため、測定値が低く検出されることがありますが、SudoScanは発汗量に依存しませんので影響しません。これまで500人以上の女性と200人以上の男性を対象に行った研究では、手のひらと足裏のESCに性別による有意な差は見られませんでした。今後の大規模研究でさらに確認される予定です。
Q 人種によって、SudoScanの測定結果に違いがでますか?
A はい、違いがあります。これまでの研究はヨーロッパ諸国、アメリカ、インド、中国で行われており、各人種の健康な人々と末梢神経障害の患者さんのデータが蓄積されています。例えば健康なアフリカ系アメリカ人は白人と比べてESC値が低いことがわかっています。SudoScanの検査結果を正しく解釈するために、初期画面で人種を選択することができます。
Q 年齢はSudoScan検査結果に影響しますか?
A はい、影響します。子供の汗腺機能は18歳になるまでホルモンの影響で安定しません。この年齢層ではデータが不足しているため、一貫性のある正確なESC基準値を出すことは困難です。18歳未満の子供の測定結果は慎重に解釈する必要があります。現在、この集団での研究が進行中です。
なお、健康な成人白人を対象とした大規模なデータ分析ではSudoScanの測定値は年齢に依存しないことが明らかになっています。これは健康な人の小径繊維の状態が年齢に左右されないという、他の検査方法による研究結果とも一致しています。
Q 室温はSudoScan検査結果に影響しますか?
A いいえ、ほとんど影響しません。5℃以上の室温の変化がある環境で臨床試験では、検査結果に影響はありませんでした。これは手のひらと足裏の表面積が小さく、体温調節への関与が少ないためです。ただし、極端に電極が冷たい場合、血管収縮が起こる可能性があります。その影響を正確に数値化するための大規模な研究が進行中ですが、検査前に手をこするなど温めるだけで測定値への影響を防ぐことができます。
Q 検査直前の運動はSudoScan検査結果に影響しますか?
A いいえ、影響しません。発汗量は運動によって変化するため、運動が測定値に与える影響を調べました。100人以上を対象に激しい運動の前後で測定を行った結果、手のひらの測定値の変動率は13%、足裏で4%でした。これらの結果から運動による発汗量に左右されないことが確認されました。
Q SudoScanの測定結果は再現性がありますか?
A 非常に高い再現性を持っています。これはスクリーニング検査として非常に重要な点です。
・高い再現性:複数の臨床試験で足のESCは5%、手のESCは10%という生体検査としては非常に優れた変動係数(Coefficient of Variation)が示されました。
・運動後の再現性:運動の前後で測定した場合、良好な再現性を示します。SudoScanは発汗量ではなく、汗腺の動的な塩化物イオンの流れを分析します。塩化物レベルは発汗量に左右されないため、より正確な情報が得られます。
・他の検査方法との比較:SudoScanの再現性は、HbA1c(特に指先穿刺法)や経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)より優れています。これらの検査の有効な再現率は20%です。
Q SudoScanは1型糖尿病に有効ですか?
A 1型糖尿病は2型糖尿病と異なり、小径C繊維神経障害などの合併症が発症する前に診断されることがあります。そのため病気の初期段階で治療が適切に行われていれば発汗機能は正常であり、SudoScanで測定されるESCは低下しません。しかし、病気が進行し、特に治療が最適ではない場合、小径C繊維に損傷が生じ、SudoScanで測定されるESCの低下として発汗機能障害が示されます。1型糖尿病には「糖尿病予備軍」の段階がないため、2型と比較して小径C繊維の損傷は少なく、またより遅い段階でC繊維の損傷が起こり、ESCの低下に気が付くケースがあります。
Q SudoScanとHbA1cの関係は?
A 2型糖尿病における小径繊維神経障害は高血糖だけでなく、高脂血症などの他の代謝障害にも関連しています。HbA1cとSudoScanの結果に厳密な相関関係は証明されていませんが、過去の研究ではHbA1c検査で変化が見られなかったにもかかわらず、ESCに顕著な低下がみられたケースが確認されています。よってSudoScanはHbA1cを補完する検査として有用です。
Q SudoScanと神経伝導検査の関係は?
A 神経伝導検査(NCS)は太くて髄鞘のある大きな神経の機能を評価します。これは運動神経や感覚神経の評価に利用できますが、熱さ、冷たさ、痛みなどを感じる細くて髄鞘のない感覚神経は評価できません。一方、SudoScanは汗腺上の交感神経C繊維を評価します。このようにNCSとSudoScanは測定する神経の種類が異なりますが、SudoScanによるESC低下度とNCS異常はほぼ平行的であると言われています。SudoScanとNCSは相互補完的検査と言えると考えています。
Q SudoScanはなぜ両手両足を測定するのですか?
A DPNでは一般的に長さ依存性から足の神経が早期に異常値を示しますが、症状が進行すると手のESC値まで低下するため、手足を計測することで症状の進行状況を把握することができます。またDPNの初期段階で代償性の「過剰発汗」の段階があり、手のESCが先に低下することがあります。更に一部の小径繊維ニューロパチー(例えば一部の感染性または自己免疫性ニューロパチー)も手から重症化するため、手のESC値の低下がみられます。このようなことにより、両手両足を測定することが不可欠となります。
Q SudoScanは医療プロトコルの一つとなりますか?
A 現在、末梢神経障害(ニューロパチー)の中でも細い神経線維が障害される「末梢性小径繊維ニューロパチー」をスクリーニングできる方法は、皮膚生検しかありません。しかし、米国糖尿病学会(ADA)やヨーロッパのガイドラインに沿って、2型糖尿病患者さんの経過観察に用いる皮膚生検に代わる検査としてSudoScanは非常に大きな可能性があります。
Q ペースメーカを装着しても検査を受けられますか?
A SudoScanは直流電流のみを使用しており、植込み型心臓ペースメーカーと植込み型除細動器の電磁両立性に関するテストプロトコルについて定めた「ANSI/AAMI PC69:2007」規格に準拠した電磁両立性テストを実施済みで、フランスの電気産業中央研究所(LCIE)が実施したテストにより「SudoScanはANSI/AAMI PC69:2007規格に適合している」という結論がでています(2012年10月報告)。ただし、Sudoscanで検査中に、めまいや徐脈が発生した場合は直ちに中止してください。
Q ベータ遮断薬を服用していても検査できますか?
A 心臓選択性β遮断剤はSudoScanの測定結果に影響を与えないと考えられています。ただし、この点を含め他の循環器系薬剤による影響について、更なるテストが必要です。
Q SudoScanの結果に影響を与える可能性のある薬はありますか?
A 抗コリン作用の強い薬はSudoScanの結果に影響を与える可能性があります。特にアミトリプチリンなどの三環系抗うつ薬はESCを著しく低下させる可能性があります。こうした患者さんは検査を受ける前に薬の半減期の2.5倍の期間(例:48時間)服用を控えることが推奨されます。それが難しい場合は結果を慎重に解釈する必要があります。
薬がESC値に与える影響は大変重要であり、現在も研究が続けられています。
Q 皮膚の状態はSudoScanの測定値に影響しますか?
A アトピー性皮膚炎やその他の皮膚疾患を持つ患者さんを対象としたSudoScanの研究はまだ途中のため、皮膚の状態がSudoScanの結果にどのように影響するのかは断言できません。SudoScanの結果を有効にするために、手のひらと足裏にただれ、潰瘍、裂傷などの開放傷がないことが必須です。
Q 検査前の手足の処置はどのようにしたらいいですか?
A 検査前に手のひらと足裏の汚れ、軟膏、ローション等を完全に落とす必要があります。石鹸で洗うのが最も良い方法です。また、多くの人が使用している抗菌性ハンドワイプ(例:Wet Ones®)はSudoScanの結果に影響は与えないようです。
Q 手の平と足裏の接触面積はESC値に影響しますか?
A 必ずしも影響するとは限りません。手足が大きい患者さん、小さい患者さんの両方を検査した結果、手足が大きい患者さんのESCが小さい患者さんよりも高くなることはありませんでした。ただし火傷や切断などによって手足の表面積が著しく減少し、汗腺が失われている場合、明らかにESC値は低くなります。